闘う社会的企業 藤井敦史ほか ( 2014)勁草書房
2022.11.15
この本の中で紹介されている社会的企業の代表的な形態である「労働統合型社会的企業」は「労働市場において多様な生きづらさを抱えた人々を対象として、生産活動を通じて彼らの社会的、経済的な自立を支援する組織」です。
労働統合型社会的企業は、欧州における1970年代に発生したオイルショックによる経済不況や1990年代の行き過ぎた新自由主義の進展などにより顕在化した、家庭の崩壊、低学歴やいじめ、病気、障がい等の社会的排除の問題を解決する協同組合や特定非営利活動法人等による自主的な取り組みを端緒としています。そして、このような自主的な取り組みを社会全体に広めるため、欧州の政府は労働統合型社会的企業を法的に位置付け、その支援体系を構築しました。
例えばイタリアは、1991年に社会的協同組合法を制定し、多様な生きづらさ抱えた人々を対象とする自助的な組織である社会的協同組合を公的に認定しました。併せて公的支援策を講じたことにより現在では、その数は8,000を超えています。
このような取り組みはイタリアのみならず欧州全域に、さらには南米、韓国等全世界的に広がり、労働統合型社会的企業の概念が浸透しています。
一方、日本においては、これまで労働統合型社会的企業の概念を表す法律はないものの、1970年代より非営利組織である民間支援団体や生活協同組合などにより,支援活動が自主的に行われてきました。
具体的には、親の会を主とした障がい者支援のための共同作業所や生活困窮者支援として,東京都山谷地域や大阪府西成地域においての物資等支援、消費者運動としての生活協同組合による安全な食材の提供など多様な取り組みが行われてきました。現在、このような取り組みは法律の創設に繋がっています。
障がい者支援については、2007年に制定された障害者自立支援法(現在は障害者総合支援法)により就労支援を主とした施策体系が構築されました。また、2015年の生活困窮者自立支援法により生活困窮者支援における保護から社会参加への転換、さらに2021年の「全員が出資、経営、働き手」となる「協同労働」の概念である労働者協同組合法により、労働者の幅広い働き方を実現する法人形態が認められるなど、今日では日本においても労働統合型社会的企業の概念が浸透しつつあります。
これからは、新自由主義的な競争社会でなく、労働統合型社会的企業が浸透することにより、政府やコミュニティも含めた社会全体で生きづらさを抱えた人々を支えていく社会になることが必要です。
「闘う社会的企業」を読みながらディーセント・ファーム かしわらも、その役割を担えることができるよう、取り組んでいこうと改めて思います。