イタリア社会的経済の地域展開 田中夏子 日本経済評論社(2004)
2021.11.9
「イタリア社会的経済の地域展開」は、イタリアが発祥とされる社会的協同組合の取り組みがわかりやすく著されています。
社会的協同組合とは、自主・自立的な運営体制のもとに、事業性のある公的な事業を展開している組織です。収益については、株式会社のように出資者に配当するのではなく、全て事業に充当することとされています。
「イタリア社会的経済の地域展開」では、社会的協同組合の多くの事例が紹介されていますが、とりわけ興味深かったのは「コムニタ・ディ・ソレシニス」農園です。
そこには、身体、精神障がいの方々、自閉症や保護観察下の青少年など9名の社会的に支援を要する人々が仕事をし、生活をともにしています。
地元自治体からの公的補助金には頼らず、自主・自立を基本としています。サフラン、バジル、ローズマリーなどのハーブを無農薬栽培し、乾燥して出荷するともに、蒸留して得られるエッセンシャルオイル、リキュールを加工販売するなど、幅広い仕事を展開されています。
商品パッケージなども、身体に障がいを有するコムニタのメンバーによる高いデザイン性の発揮により、イタリア国内でも模倣商品が出回るなど、評価の高いものとなっています。
特に印象深かったのは、なぜ農業なのかという問いに対する、代表者であるサンナさんの答えです。
「農業や農産物の加工・販売は、多様な活動と能力が必要とされる。一人で全部はできないが誰もがいくつかの局面では必ず能力を発揮できる。無農薬栽培やデザイン性の高いパッケージなどは、通常よりも手間がかかるが、彼ら、彼女たちの仕事を生み出すことに繋がっている」とのことです。
「コムニタ・ディ・ソレシニス」農園は、メンバーそれぞれが自分のペースで、適性に合う仕事をしています。十分な事業性も有しており、社会的に支援を要する人々は仕事を通じた自己実現と多様な価値を創造しています。
かつて観たイタリア映画「人生、ここにあり」を思い起こしました。その映画では、精神科病院の閉鎖型病棟が廃止され、患者さんたちがそれぞれの得意分野を活かして協同事業を起こし、生き生きと暮らす社会的協同組合のすがたが描かれていました。
コロナが収まったら、社会的協同組合とはどのようなものなのか、「コムニタ・ディ・ソレシニス」をお伺いしたいと思う「イタリア社会的経済の地域展開」でした。